シンハラ語の話

 スリランカでは,おもに3つの言葉が話されています。シンハラ語,タミル語,英語です。今は,シンハラ語とタミル語が公用語(国の言葉として認められているもの),英語が準公用語となっています。このページでは,国民の7割以上が使っているシンハラ語について話をします。
 ほとんどの人は,「シンハラ語」という言語があることを知らないと思います。それもそのはず,シンハラ語は,スリランカで生まれ,スリランカでしか使われていない言葉なのです。スリランカは,インドの下に浮かぶ小さな島国ですから,他に伝わっていくこともなく,ずっとスリランカ国内だけで使われてきました。その起源ははっきりしていませんが,今から800年ほど前には,すでに今のシンハラ文字や文法ができあがっていたと考えられています。言葉は,パーリ語,サンスクリット語,タミル語の3つの言語がもとになっているようです。現在のシンハラ語は,英語の影響も多く受けています。
 日本とスリランカは,海を隔てて数千キロメートルも離れています。日本もスリランカも島国ですから何の接点もなさそうですが,シンハラ語は不思議と日本語に似ているところがあります。文法(言葉の使い方)が似ているだけでなく,言葉そのものも似ているところがあるのです。(くわしくは,「スリランカってどんなところ?」を見てください。)日本語の母音は,「ア,イ,ウ,エ,オ」ですが,シンハラ語の基本的な母音は「ア,アェ,イ,ウ,エ,オ
」の6音です。「アェ」などという音の表し方は見たことがないかもしれませんが,これは,アとエの中間のような発音で,日本人にはとても難しく感じられます。(日本語では,この発音の表し方がないので,「アェ」と表すことにします。)おもしろいことに,この並び方が「アェ」をのぞけば日本語と同じです。シンハラ語の勉強をするときは,この母音の発音の練習を最初にしますが,その時は,「アッ,アー。アェッ,アェーイッ,イー。ウッ,ウー。エッ,エー。オッ,オー」というように練習をします。シンハラ語の場合,長音(のばす音)も母音と考えますから,これで12この母音です。
 シンハラ文字は,初めてみると,「これが文字なのか!」という印象を受けることでしょう。何かのマークのようでもありますし,見方によっては人のおしりのようにも見えます。(じょうだんで,おしり文字とよぶ人もいるようです。)
日本語は,「か」という発音は,「か」と書きます。みなさんは,そんなの当たり前だと思うかもしれません。しかし,ローマ字では,KとAを合わせて「KA」と書くように,2つ,またはそれ以上の文字を組み合わせて一つの音を表す言葉はたくさんあるのです。シンハラ文字もローマ字のような表し方をし,母音18文字,子音36文字から成っています。
 それでは,シンハラ語を少し勉強してみましょう。

「あなたの名前は何ですか?」 → 「オヤ ゲ ナマ モカッダ?」

「私の名前は,太郎です。」 → 「マゲ ナマ タロー」

「あなたのとしは,いくつですか?」 → 「オヤゲ ワヤサ キーヤダ?」

「10才です。」 → 「アウルドゥ ダハヤイ」

 もう気がつきましたね。「オヤゲ」は,「あなたの」です。「オヤ」が「あなた」,「ゲ」が「の」にあたります。「マゲ」は「わたしの」です。「ナマ」は「名前」,「ワヤサ」は「年令」です。「モカッダ」は「何ですか」,「キーヤダ」は「いくつですか」です。「アウルドゥ」は「才(年)」,「ダハヤイ」は「10」です。「10才」のところは日本語と少し違っていて,先に「アウルドゥ」を言ってからそのあとに数を言います。このように見ていくと,文法もよく似ていることがわかります。コロンボ日本人学校には,シンハラ語の得意な子が何人かいて,とても上手に話すことができます。

   


 最後にシンハラ語のエピソードを一つ。以前,金物屋にホースを買いに行ったときのことです。スリランカでは,思ったものがなかなか手に入りません。その時も短いホースしかなかったので,しかたなく2本のホースをくっつけて使おうと考えました。そこで,「この2本のホースをくっつけることはできますか。」と聞こうとしたのですが,「くっつける」というシンハラ語がどうしても出てきません。シンハラ語では,「する」にあたる言葉は「カラナワ」といい,その命令形は「カランナ」です。「○○できますか?」と聞くときは,「○○カランナ プルワンダ?」と言います。そこで,苦しまぎれに英語とシンハラ語をくっつけて「ジョイント カランナ プルワンダ?」と聞くと,「オウ,オウ。プルワン。(はい,はい。できます。)」と,お店の人が答えて,2本のホースをくっつけてくれました。もちろん,「ジョイント カランナ」というシンハラ語は,一般的には使われないと思いますが,上にも書いたとおり,現在のシンハラ語は英語の影響を多分に受けていますから,このような言い方でもお店の人は笑ったりせず対応してくれたのだと思います。ちなみに,英語とシンハラ語がくっついた形で,一般的に使われている言葉としては「チェック カランナ」「オン カランナ」「オフ カランナ」「ブック(予約)カランナ」などがあります。こういう言葉はスリランカ全土で使われているわけではなく,コロンボのような都市でよく使われます。そういえば,日本でも「チェックする」「ジョイントする」「オンする」などといっても十分通じますね。


MAIL    TOP